リレー連載 My亜細亜なう 第一回 「デザイン」×「アジア」×「コンテンポラリー」 スーパーマーケット商品のデザインに見るアジアの先走り感2018-10-28T10:47:57+00:00

第一回
「デザイン」×「アジア」
×「コンテンポラリー」

スーパーマーケット商品のデザインに見る
アジアの先走り感

渡部千春 (写真と文)

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さて問題です。
この写真に写る商品はなんでしょう?

さて問題です。
この写真に写る商品はなんでしょう?

答えは上海のコンビニで見た、シーソルトキャラメルクッキー風味のアイスクリーム。
中国語が分からなければ、中身が全く予想できないパターン柄と文字のみのパッケージ。ハイエンドなショップでは中身のシズル感がないアイスクリームがあっても不思議ではないが、コンビニで出すのはなかなか難しい。
昨今こういう「なかなか難しい」商品に出合うのもなかなか難しいわけで、大概どこの国もその商品群のコンテクストにのっとった分かりやすいグラフィックが出回っているので、分からないデザインに出合うのはむしろ楽しい。
そして中国はコンテクストのない突然なデザインの宝庫である。

スーパーマーケットは
デザインの「現場」!

大体1年に6回くらいは海外に行く。現地のスーパーマーケットに行くと、3時間くらいはホテルに戻ってこない。旅の同行者がいるときでも一人で行く。そうでなければ同行者が飽きて先に帰る。

私にとってスーパーマーケットはデザインの「現場」であり「博物館」である。入るだけなら無料だし、希望すれば購入もできる。なんと素晴らしい場所であろうか。

どんなにインターネットの情報が世界中で共有され、国際化が進んだとしても、やはり気候風土や歴史に根付いた地域性は存在する。市場やコンビニ、スーパーマーケットで見る日用品や食品のパッケージデザインには、こうした地域性が出やすい。

生活習慣や現地の食生活を反映しているだけではなく、値段が高めなものや新しい商品などには「次にこういう生活がしたい」という消費者の願望も反映される(正確にいえば、メーカーが消費者の願望を反映しようと努力している)。現地の人が目指す近い未来像も垣間見え、商品デザインの変化が速ければ速いほど、消費者の次段階への願望が大きいことを示す。

ざっくりとした分け方になるが、欧米(特に北米と西ヨーロッパ)と比較して、東アジア、東南アジアの商品デザインの変化スピードは速い。東方アジア内でも各国・地域ごとにかなりスピードは異なっていて、世界的に見れば日本も相当速いのだが、先日上海に行き、日本は中国のスピードとは全く比較にならないことを実感した。
中国のスーパーマーケットではデザインだけでなく、商品そのものの回転が速い。去年あったものが今年はない。いつもの商品のデザインが急に変わる。そんなことがしょっちゅう起こっている。
私が前回、中国に行ったのが2017年6月の四川省の成都で、今年の8月は上海、と地理的な違いがあるので、流通網の差もあるが、上海近郊生まれ育ちの中国人留学生も「年に1度帰ると全く商品が違っていたりする」と言っていたので、私が感じたスピード感は間違ってないようだ。

歯ブラシのデザインも
独自に進化

分かりやすいところでは、歯ブラシの例。
歯ブラシは(電動歯ブラシを除き)プラスチックの柄にブラシとなる毛を植え込んで作られる。基本的な構造として難しくはないが、日用品として低価格にするためある程度の大量生産が求められる。違うデザインが次々出るものではない、というのが一般的な認識。
なのだが、中国でこの認識は覆される。
グローバルブランドのコルゲートやオーラル B 、日本や韓国のオーラルケアブランドも進出し、中国国内ブランドも同様なデザインの傾向を汲んで「海外と変わらない」商品群であるものの、ここ2,3年ほど台湾や香港なども含む中国語圏で際立った傾向として、くねくねしたハイテクな形状で、色は黒と金色というのが流行っていた。
このの写真は、去年成都で撮ったもので、アイドル(元韓国のアイドルグループ EXOのメンバー、クリス。中国名ウー・イーファン/呉亦凡)。写真もどーんと使って、イケイケな感じ。
今年の上海にもあったけれども、黒金な歯ブラシは面積が少なくなって、売り場には一気にシンプルなものが増えている。

ブラシも柄も金と黒で。もっとうねうねとした派手な形のものもある。

歯ブラシ売り場全体を写真に収めきれていないが、全体的に余白の多いすっきりとしたデザインが大きく面積を占めている。韓国のデザインの影響だと思われるが、まだ雰囲気で作っている感じではあるので、シリーズとしてはまとまりが悪い。

余白が多すぎてなんだか分からない商品もある。
下の写真にあるハミガキは、文字をきちんと確認しなければ、入れ歯安定剤ともコスメ系の何かとも勘違いしそうだ。

ミニマリズム極まって、字が読めないほど。

ストレートな柄で一色使い、というシンプルなものが突如として増えた。

予期せぬデザインの
“先走り感”を楽しむ

最初に例を挙げたアイスクリームしかり、中国の突然すぎるデザインはあまりにも多いのでキリがないがもう一つ。の写真は、中国でよく食べられる味付きのひまわりの種。「牛葵」はひまわりの種型の袋で、インパクトがあり目に飛び込んで来るが、サイズがスーパーマーケットの陳列棚に合わない、ということは多分計算に入れてなかった。

今回は中国を例に取ったけれども、タイを始め東南アジアのスピード感も相当なものだ。

スピードが速く、突然すぎるデザインが出ては消えていく、という状況は、思い返せば80年代バブル期の日本でもあった。あの頃は商品デザインよりも広告の分野で突然感が炸裂していた。
テレビや雑誌などのメディアには、それまでの常識を覆し、コンテクストが全くない、どこから現れたとも分からない “イメージ世界” が溢れていた。そういえば、当時の中高年の世代は、突然なものを次々出してくる若い世代を “新人類” などという言葉で表現していたことを思い出した。

サイズ変形は買い物客にはインパクトがあるが、棚入れ係の人にはかなり迷惑。

当時我々が “消費” していたイメージには、あるいは中国で見る商品デザインには、前述した「 “次にこういう生活がしたい” という消費者の願望」が加速急展開して表れてくる。
80年代の広告はかなり非現実的だったので「こういう生活がしたい」というよりは「こんな世界があると信じたい」だったかもしれないが、急速に経済成長・文化成長している時代の産物というのは得てして、多くの消費者を振り切るほどのスピードで先走る。
80年代の我々も今の中国都市部の人々も、このバカバカしいほどの急成長をバカバカしいと思いながら楽しんでいる自分たち/消費者がいて、どこか自嘲しながら、それでも次に何が来るのかワクワクして待ち、その理解不可能さに戸惑いながらも、それすらも楽しんでいるところが共通している。
先走り感や、それがゆえのツメの甘さもひっくるめ、商品サイクルのスピードにはあらがいがたい魅力がある。

世界的に現在のデザインは、コンテクストにのっとり、理解可能な範囲で、理性的にモノを作ることが基軸としてある。日本国内に目を向けると、レールから外れようものならば、即座にSNSで叩かれてしまうことへの恐れもあり、やや自粛気味になっていることは否めない。こんな場所にいると、何か規範から外れたものが見たくなり、そして私はまた飛行機のチケットを予約してしまうのである。

著者プロフィール
渡部千春(わたべ ちはる)
デザインジャーナリスト。1969年生まれ。東京造形大学准教授。著書に『これ、誰がデザインしたの?』『続・これ、誰がデザインしたの?』(美術出版社)、『北欧デザイン』(プチグラパブリッシング)、『日本ブランドが世界を巡る』(日経BP社)など。