リレー連載 My亜細亜なう 第二回 「映画」×「アジア」×「コンテンポラリー」 スーパーマーケット商品のデザインに見るアジアの先走り感2018-10-24T13:24:39+00:00

第二回
「映画」×「アジア」
×「コンテンポラリー」

世界の映画祭を席巻!
パーソナルな物語を語る新世代の映像作家たち

立田敦子 (文)

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映画界にもファッション界と同じように、流行というか、大きな流れがある。その時代の空気が反映されるのが、国際映画祭だ。特に、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンといった三大映画祭は、ファッションのパリ・コレクションやミラノ・コレクションと同様、流行発信の起点でもある。
私がカンヌやヴェネチアに通い始めた90年代後半には、映画界では(特にヨーロッパで)アジア・ムーブメントが起こっていた。1997年に北野武監督がヴェネチアで最高賞の金獅子賞を受賞したことは、映画ファンでなくても記憶している人は多いと思うが、当時、ブームを牽引していた強烈な存在が台湾映画だった。

存在感を放った台湾ニューウェイヴの
第二世代

80年代に台湾社会の自由化の傾向が追い風となって台頭してきた台湾ニューウェイヴの旗手エドワード・ヤン(楊德昌)やホウ・シャオシェン(侯孝賢)たちは90年代には国際的にも知られることとなるが、台湾がさらに注目される原動力となったのはひと世代下の第二次ニューウェイヴの監督たちだ。長編デビュー作『青春神話』で高い評価を得たツァイ・ミンリャン(蔡 明亮)は、マレーシア出身で台湾で活躍する監督だが、94年には長編第2作目の『愛情萬歳』でヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞し、3作目の『河』は97年のベルリンで審査員グランプリ、続く『Hole-洞』は、98年のカンヌで国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、立て続けに国際的な賞を受賞し、台湾のみならずアジアで最もエキサイティングな監督として名を上げた。
ブレイクスルーのきっかけとなった『愛情萬歳』は、台北の空室になった高級マンションで奇妙な共同生活を始める3人の若い男女を通して、現代人の孤独や不安を浮かび上がらせる傑作。主人公たちの心の疵(きず)をえぐり出すような、長回しのカメラには類いまれな才能を感じさせられた。そのラディカルさは色あせることなく、長編第10作目の『郊遊 <ピクニック>』はヴェネチア映画祭で審査員グランプリを受賞するが、商業映画からの引退を発表。2017年には、VR(仮想現実)コンテンツの中編『家在蘭若寺』を発表、その年、ヴェネチア映画祭に新設されたVR部門でも上映され、映像作家としての健在ぶりを示した。
同時代をまったく別のアプローチで牽引したのがアン・リーである。大学を卒業後、米国に渡り名門ニューヨーク大学などで映画を学ぶもなかなかチャンスをつかめなかった彼は、母国での脚本賞に応募し、『推手』で監督デビュー。現代の台湾人のアイデンティティにスポットライトを当てた台湾三部作で評価された後は、拠点である米国から多彩な作品を発表し続けている。
『ウェディング・バンケット』(93年)と『いつか晴れた日に』(95年)ではベルリンで最高賞である金熊賞を受賞、ヴェネチア映画祭では『ブロークバック・マウンテン』(05年)、『ラスト、コーション』(07年)で2度の金獅子賞に輝いている。カナダの作家E・アニー・プルーの短編の映画化である『ブロークバック・マウンテン』ではアカデミー賞監督賞も受賞するなど、アジア人監督として、国籍を超えて最も成功した監督でもある。

中国版“ヌーヴェルヴァーグ”以後と
才能を輩出し続ける韓国

ジャ・ジャンクー監督最新作『Ash is Purest White』より。

一方、中国では第六世代が90年代以降、国際的に注目され始めた。
検閲による影響をかいくぐり、低予算で撮られたいわば中国版“ヌーヴェルヴァーグ”ともいえるムーブメントの中で台頭してきたジャ・ジャンクー(賈樟柯)やロウ・イエ(婁燁)らは、文革以降のチェン・カイコー(陳凱歌)やチャン・イーモウ(張芸謀)といった第五世代の巨匠たちとは一線を画し、より個人的な物語を紡ぎ出す。特に、ジャ・ジャンクーは、急速に近代化する中国の現代社会を背景に、その巨大なうねりの中で戸惑い、アイデンティティを模索する人々を浮き彫りにする。国際映画祭でも常連で、三峡ダムの建設により沈み行く村を舞台にした『長江哀歌(ちょうこうエレジー)』は、2006年のヴェネチアで金獅子賞を受賞している。
ある意味、アジアにおいて中国や日本は映画“先進国”だったワケだが、2000年代から今日に至るまで、最も多くの才能を輩出しているのが韓国だ。
2012年のヴェネチアで『嘆きのピエタ』が金獅子賞を受賞したキム・ギドク(金基德)を始め、『復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』、『親切なクムジャさん』の復讐三部作で知られるパク・チャヌク(朴贊郁)、小説家であり文化観光部長官の経歴もあるイ・チャンドン(李滄東)、私小説風のラブストーリーの語り手、ホン・サンス(洪尙秀)、『グエムル—漢江の怪物—』の大ヒットで名を売ったポン・ジュノ(奉俊昊)監督など、個性も作風も多彩だ。特に、2017年には米国の配信サービスNetflix製作の英語映画『オクジャ/okja』がカンヌのコンペ部門で上映され、物議を醸したポン・ジュノは、日本の漫画文化で育った世代で、エンターテインメント性と作家性を供えた監督として、海外からの注目度も高い。まさに、アジアの映画大国になりつつあるといってもいい。

村上春樹の短編「納屋を焼く」を原作にしたイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』の国際版ポスター。日本公開は2019年2月予定。

世界を席巻するアジア映画たち

また、トレンドという意味において、注目したいのが東アジアである。
2017年のヴェネチアで金獅子賞を受賞した『立ち去った女』のラヴ・ディアス、『キタナイ—マニラ・アンダーグラウンド—』で知られる鬼才ブリランテ・メンドーサ、『ブンミおじさんの森』(10年)で現代美術のアーティストとしても評価の高いタイのアピチャッポン・ウィーラセタクンなど、複雑な自国の歴史や政治の混沌から生まれた極めて個人的な作品は、斬新で刺激的である。
日本の家族の肖像を語り続けてきた是枝裕和監督がその結晶ともいえる『万引き家族』で2018年カンヌのパルムドールを受賞し、あるひとつの到達点に達した今、日本映画界からも新しい個性の誕生を願うばかりだ。

著者プロフィール
立田敦子(たつた あつこ)
映画ジャーナリスト/評論家 雑誌や新聞、WEBサイトなどで批評やインタビュー、映画祭レポートなどを手がける。著書に『どっちのスター・ウォーズ』、『おしゃれも人生も映画から』(ともに中央公論新社)など。